最新号

地学雑誌 2023 132巻 6号

2023 132巻 6号

雲をまとった南硫黄島

南硫黄島は伊豆小笠原弧南端部に位置する無人の火山島である.島は直径約2km しかないにも関わらず,山頂標高は916mもあり,伊豆小笠原諸島のなかでは最高峰である.このため急峻な円錐状をしており,海岸沿いまで海食崖が迫っている.
 火山地質的には溶岩やアグルチネートを主体とした成層火山であり,ソレアイト質玄武岩とアルカリ玄武岩の中間的な組成を示す.歴史噴火の記録はないが,福山(1983)は溶岩流や岩脈の熱残留磁化方位が正であることから,本火山の活動時期は古くとも数十万年とした.また未公表ではあるが,玄武岩から約3万年前のK-Ar年代も報告されている(Nakano et al., 2009).
 南硫黄島は,北福徳カルデラと呼ばれる,伊豆小笠原弧最大級の海底カルデラ(16×10km)の南縁上に位置しており,海底地形の特徴から,南北に約50km,東西に約25kmもある巨大海底複合火山の一部であることが最近報告された(Minami and Tani, 2023).2021年8月に噴火した福徳岡ノ場も北福徳カルデラ内の後カルデラ火山である.
 本写真は東北海洋生態系調査研究船「新青丸」を用いて実施した,福徳岡ノ場火山2021年噴火の緊急調査航海にて撮影したものである.


(写真・解説:谷 健一郎 2022年8月29日撮影)



文 献

福山博之 (1983): 火山列島, 南硫黄火山の地質. 地学雑誌, 92, 55-67.

Minami, H. and Tani, K. (2023): The Fukutoku Volcanic complex: Implications for the northward extension of Mariana rifting and its tectonic controls on arc volcanism. Marine Geology, doi:10.1016/j.margeo.2023.106996.

Nakano, S., Matsumoto, A., Ohta, Y., Nakamura, H. and Furukawa, R. (2009): K-Ar ages of volcanic rocks from Kita-Iwo-To and Minami-Iwo-To Islands. Abstract of the Japan Geoscience Union Annual Meeting, Chiba, Japan 2009 May.



総 説

森林流域における窒素沈着の影響—窒素飽和と窒素流出—

田林 雄

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(6), 451.

DOI:10.5026/jgeography.132.451

論 説

2015年5月芦ノ湖北岸の群発地震活動—その発生要因—

板寺一洋・吉田明夫

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(6), 465.

DOI:10.5026/jgeography.132.465

関東各地で検出された1.65Ma頃に降下した前期更新世テフラ
 —SYG-Kd29,Ob3-Kd31Bの認定とその意義—

鈴木毅彦・渡辺 樹・橋本真由・川畑美桜子・神馬菜々美・
菅澤大樹・川島眞一・國分邦紀・中山俊雄

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(6), 483.

DOI:10.5026/jgeography.132.483

短 報

技能を用いる農外就業とその変化—中国雲南省鶴慶県ペー族の1自然村を例として—

雨森直也

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(6), 505.

DOI:10.5026/jgeography.132.505

小笠原諸島 母島の降水特性 補遺

松山 洋

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(6), 515.

DOI:10.5026/jgeography.132.515

地学ニュース

令和2年度助成金報告

  • 湖環境で発生する大規模マグマ水蒸気爆発における外来水の影響(予察)
       隅田まり・野口真利江

令和4年度助成金報告

  • 武蔵野台地地下に発達する上総層群の年代層序
       加藤 進
  • 日本海沿岸域における十年規模変動解明のための
     新たな冬季モンスーン指標の開発
       高田裕行
  • 沖縄県多良間島の不飽和域における塩濃度分布の解明
       田嶋 智
  • マルチアイソトープを用いた沖縄県辺戸岬におけるエアロゾルの起源の解明
       土岐知弘・河野彩香・申 基澈
  • 国際地理学連合(IGU)テーマ会議
     「関係性の中の島嶼—紛争,持続可能性,平和」
       山﨑孝史
  • 第15回空間情報理論国際会議(COSIT 2022)
       石川 徹
  • 第9回国際地学教育会議
     「The 9th International Conference on Geoscience Education
      (GeoSciEd IX)」日本(島根大会)報告
       川村教一

書評

  • 藤井敏嗣:火山—地球と脈動と人との関わり—(佐野貴司)
  • 岡 秀一・青山高義・小川 肇・梅本 亨:風よけの気候景観
     — 暮らしを守る屋敷林・防風林(松山 洋)

紙碑

  • 名誉会員松田時彦先生のご逝去を悼む

協会記事

  • 理事会(令和5年度第1回理事会)
  • 定時総会(令和5年度(第144回))
  • 令和4年度(第144期)事業報告書
  • 令和5年度(第145期)事業計画書

奥付