1961年に東京都昭島市,JR八高線の鉄橋の下の多摩川河床で,アキシマクジラ(Eschrichtius akishimaensis)の化石が発見された.化石は上総層群小宮層(平山層に相当)から産出したもので,前期更新世に少なくとも2つの系統のコククジラ属が生き残っていたことを示唆するという.産出地点の下流に目を向けると,河流に平行する高さ2m程度の島状の地形が多数発達している.島と島の間の溝は,下流に向かって細長く続く.水位が上昇すれば,島々がまるで牛の群れが泳いでいるように見えることから,小泉(1996)はこれを「牛群地形」と呼んだ.多摩川では,明治時代頃から1968年まで,河床の砂利が盛んに採取された.青梅市から狛江市の間では,採掘箇所は104か所(1963年度末)にも及んだらしい.砂利の採取が引き金となって,おもに半固結の砂層からなる小宮層が露出し,徐々に水流が縦溝を刻み,世界的にも類例の少ない写真の地形が形成された.牛群地形は失われつつある地形で,化石のように残らない,人新世(Anthropocene)の一コマといえる.
(写真・説明:藁谷哲也)
文 献
小泉武栄(1996): 八高線多摩川鉄橋下の「牛群地形」.多摩のあゆみ,83,56-57.
中部日本高地における山岳域の天候変動の現在天気計による10年監視(英文)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2022, 131(4), 393.
DOI:10.5026/jgeography.131.393
西南日本弧白亜紀前弧盆地の西端とその後背地
—長崎・西彼杵半島の上部白亜系・古第三系砂岩の砕屑性ジルコンU–Pb年代測定—
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2022, 131(4), 407.
DOI:10.5026/jgeography.131.407
ミャンマー・シッタン川エスチュアリーにおける数十年規模の地形発達(英文)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2022, 131(4), 427.
DOI:10.5026/jgeography.131.427
北アルプス・前穂高岳北尾根東面奥又白谷上部で発生した
大–中規模斜面崩壊とそれによる岩塊斜面
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2022, 131(4), 447.
DOI:10.5026/jgeography.131.447
コンピュータゲーム「Minecraft」を用いた仙台市上杉地区の地質に関する教材開発
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2022, 131(4), 463.
DOI:10.5026/jgeography.131.463
長崎県佐世保市東浜町の礫岩質ビーチロックから採取した試料の放射性炭素年代測定
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2022, 131(4), 473.
DOI:10.5026/jgeography.131.473