本井戸は,東京湾西岸地域の沖積低地に位置しており,品川区には過去に生活用水として使用されていた手押しポンプ付きの井戸が多数残されている.本井戸の深さは,9.1mであり,スクリーンの幅は不明である.本井戸は現在手押しポンプが故障中であり,そのためオレンジ色の布を被せている.
東京都品川区の公共下水道普及率は99.5%(東京都下水道局1))にも関わらず,δ15N-NO3 と窒素濃度を用いた混合解析(EMMA)結果,本井戸から採水される地下水には下水漏水の混入が示唆され,周辺の地下水と比較しても高いCl−濃度を有している.一方,NO3−濃度は低く(n.d.∼5mg/L),HCO3−濃度は高く(120∼200mg/L),ORPSHEは低い(50∼200mV)ことから,嫌気的な環境下における脱窒反応が生じていると考えられる(伊東ほか,2023).
(撮影:伊東優希;説明:李 盛源)
注
1) 東京都下水道局下水道100%普及達成年次表
https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/living/a2/spread/tasseinennzi/index.html [Cited 2023/1/28].
文 献
伊東優希・安原正也・李 盛源・中村高志・稲村明彦(2023):硝酸イオンによる都市域の地下水汚染—東京都品川区を例に—.地学雑誌,132,141–160.
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 67.
DOI:10.5026/jgeography.132.67
特集号「硝酸性窒素による地下水汚染問題の過去・現在・未来」巻頭言
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 71.
DOI:10.5026/jgeography.132.71
窒素問題に対する世界の取り組みとその地下水硝酸性窒素汚染への影響(総説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 75.
DOI:10.5026/jgeography.132.75
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 93.
DOI:10.5026/jgeography.132.93
硝酸性窒素による地下水汚染問題と家畜排泄物処理について(総説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 107.
DOI:10.5026/jgeography.132.107
扇状地における硝酸性窒素による地下水汚染機構
—汚染事例における背景・要因および特徴について—(総説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 127.
DOI:10.5026/jgeography.132.127
硝酸イオンによる都市域の地下水汚染—東京都品川区を例に—(論説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 141.
DOI:10.5026/jgeography.132.141
熊本市の硝酸性窒素削減対策—乳牛および肉用牛を主体とする家畜排せつ物に特化した
新たな取り組み事例—(短報)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 161.
DOI:10.5026/jgeography.132.161
家畜排せつ物の素掘り廃棄ピットからの窒素の流出と周辺における浄化作用(短報)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 169.
DOI:10.5026/jgeography.132.169
ネパール・カトマンズ盆地の都市域における浅層地下水の窒素汚染と脱窒(英文)(論説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2023, 132(2), 183.
DOI:10.5026/jgeography.132.183