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地学雑誌 2020 129巻 6号

2020 129巻 6号

生命の誕生と進化を駆動する外部エネルギー—自然原子炉と太陽—

生命誕生の過程では,多種多様な生命構成単位(building blocks of life; BBLs)を合成するための強力な外部エネルギーが必要である.太陽エネルギーは化学進化を駆動するには弱すぎるうえ,夜間のエネルギー供給はゼロである.それゆえ他のエネルギー源が必要である.その有力な候補の一つが,冥王代地球表層に普遍的に存在していたと考えられる自然原子炉である.自然原子炉起源のウランの崩壊熱と電離放射線は前駆的化学進化において重要な役割を担う.電離放射線のように,十分な活性化エネルギーがコンスタントに確保されと,無機分子からより複雑な有機分子が合成されうる.こうした反応は,太陽光やマグマ由来の熱では到底不可能である.つまり,生命誕生へ向けた最初のプロセスは電離放射線が駆動したと考えられる.自然原子炉と間欠泉が組み合わさり物質・エネルギー循環系が形成されると,初期生命の誕生に向けたさまざまな反応が試行され,代謝と自己複製の機能がつくられたと推定される.間欠泉によって大気中に放出されたミクロンサイズの液滴飛沫が,もっとも原始的な細胞をつくりだし,より複雑化した膜やさまざまなBBLsの組み合わせをつくりだしたのであろう.さらに地上に放出された多種多様な原始細胞は,強力かつ豊富なエネルギー源である自然原子炉から離れたことが原因で,生き残りをかけて,やがて太陽光を利用する新たな機能を獲得したのであろう.表紙の画像は,生命進化を駆動する重要なエネルギー源である自然原始炉と太陽を対照的に描いたもので,地球と生命の誕生,共進化,未来を描いた12編からなるCG動画集「全地球史アトラス」1)の1シーンである.


(丸山茂徳)


Notes

1) YouTube; https://www.youtube.com/c/ 冥王代生命学の創成 (in Japanese) or https://www.youtube.com/c/HadeanBioscience (in English) [Cited 2020/10/27].


特集号:冥王代の世界(Part III)—生命誕生と初期進化—

Overview of the Special Issue
 “The Hadean World (Part III): Emergence of Life and Early Evolution”

Shigenori MARUYAMA, Toshikazu EBISUZAKI,
Yukio ISOZAKI and Ken KUROKAWA

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 745.

DOI:10.5026/jgeography.129.745

特集号「冥王代の世界(Part III)—生命誕生と初期進化—」巻頭言

丸山茂徳・戎崎俊一・磯﨑行雄・黒川 顕

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 751.

DOI:10.5026/jgeography.129.751

最古型生命が生息する白馬地域の温泉水の分類と
 生命の起源の解明における冥王代疑似環境生態系の重要性(総説)

丸山茂徳・佐藤友彦・澤木佑介・須田 好

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 757.

DOI:10.5026/jgeography.129.757

原子炉間欠泉に駆動された冥王代原初代謝経路(総説)

戎崎俊一・西原秀典・黒川 顕・森 宙史・
鎌形洋一・玉木秀幸・中井亮佑・大島 拓・
原 正彦・鈴木鉄兵・丸山茂徳

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 779.

DOI:10.5026/jgeography.129.779

最小ゲノム—細胞が生きるために必要な遺伝子数はいくつか—(総説)

馬場知哉・柿澤茂行・森 宙史・車 兪澈・
黒川 顕・大島 拓

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 805.

DOI:10.5026/jgeography.129.805

[NiFe]ヒドロゲナーゼ類縁エネルギー保存システムの分子進化(論説)

成廣 隆・Masaru K. NOBU・Ling LENG・玉木秀幸

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 825.

DOI:10.5026/jgeography.129.825

電離放射線が駆動する化学進化(総説)

蟻 瑞欽・アルバート・ファーレンバック・本郷やよい

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 837.

DOI:10.5026/jgeography.129.837

硫化鉱物による化学進化と鉄イオウタンパク質の誕生(総説)

五十嵐健輔・柿澤茂行

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 853.

DOI:10.5026/jgeography.129.853

原始生命の細胞構造を探る(総説)

市橋伯一

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 871.

DOI:10.5026/jgeography.129.871

生命の起源研究におけるCPRバクテリアの重要性(総説)

鶴巻 萌・齋藤元文・丸山茂徳・金井昭夫

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 881.

DOI:10.5026/jgeography.129.881

真核生物の起源における原核生物の重要性と当時の地球環境(総説)

武山尚生・高橋佑歌・永田祥平・澤木佑介・佐藤友彦・
丸山茂徳・金井昭夫

Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2020, 129(6), 899.

DOI:10.5026/jgeography.129.899

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令和元年度助成金報告

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書評

  • 藁谷哲也編:カンボジア研究—その自然・文化・社会・政治・経済—
     (前田拓志)
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