岩石‒水相互作用にともなう第一次生命体の前駆的な化学反応プロセスの一部
表紙は,さまざまな金属タンパク質の誕生プロセスを模式的に描いたものである.岩石が水と反応すると,岩石に含まれる多種多様な鉱物からさまざまな元素が溶解する.この過程は原始生命にとって重要な無機栄養塩を供給し,多様な元素が大気起源の無機生命構成主要元素と反応し,さらに高次の有機物が合成されていったと考えられる.冥王代の地球表層に露出していた典型的な岩石は,KREEP 玄武岩,アノーソサイト,およびコマチアイトの3 種類で,マグマオーシャンから結晶化したシュライバサイト(Fe3P)などの無水の還元的な鉱物を含んでいた.約43.7 億年前にABEL 爆撃(Part I)がはじまると酸化的大気(CO2–H2O–N2)が生まれ,その時に岩石–水相互作用がはじまった.KREEP玄武岩は,Fe2+, S, P, Ti, Zn, Moなどを供給し,アノーソサイトは,Ca, Cr, Mg, Fe2+, Mn3+ など,またコマチアイトはFe2+, S, Ni, Mg などをおのおの供給した.それぞれの岩石表面には岩石–水相互作用を通して供給された元素を利用した多種多様な金属タンパクが合成され,自然原子炉が駆動するエネルギー・物質循環系のなかで高次の生命構成単位を生みだした.そのプロセスのなかで第一次生命体がバイオフィルム様のコロニーを上記の3種類の岩石表面でつくり,さらに複雑に進化していったと考えられる(詳細は吉屋ほか, 2019 参照).
(丸山茂徳)
文 献
吉屋一美・佐藤友彦・大森聡一・丸山茂徳(2019):原始生命誕生場で起こる岩石–水相互作用と金属タンパク合成のための二次鉱物の役割.地学雑誌,128, 625–647.
Overview of the Special Issue
“The Hadean World (Part II): Preparing a Site for the First Life”
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 479.
DOI:10.5026/jgeography.128.479
特集号「冥王代の世界(Part II)─生命誕生場の準備─」巻頭言
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 485.
DOI:10.5026/jgeography.128.485
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 491.
DOI:10.5026/jgeography.128.491
地球生命誕生場に必要な9条件と生命誕生場としての自然原子炉間欠泉モデルの再考
─生命誕生場は冥王代の地球表層の1か所─(総説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 513.
DOI:10.5026/jgeography.128.513
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 549.
DOI:10.5026/jgeography.128.549
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 571.
DOI:10.5026/jgeography.128.571
ラブラドル・ヌリアック表成岩の炭酸塩岩の化学組成と炭質物の炭素同位体組成
─地球最古の生命の痕跡と海水組成の推定─(論説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 597.
DOI:10.5026/jgeography.128.597
原始生命誕生場で起こる岩石‒水相互作用と
金属タンパク合成のための二次鉱物の役割(総説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 625.
DOI:10.5026/jgeography.128.625
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 649.
DOI:10.5026/jgeography.128.649
古生代末(2.5億年前)大量絶滅層準の高いヘリウム同位体記録
─冥王代以来の地球史を通した地球外物質流入同定方法の探索─(論説)
Journal of Geography (Chigaku Zasshi), 2019, 128(4), 667.
DOI:10.5026/jgeography.128.667